【画家について】Herdis Gelardi
こんばんは。シドゥです。11月の作品を更新しました。
デンマークの画家Herdis Gelardiの作品です。
Herdis Gelardiはわたしが大好きで、もっとも取り扱い作品数が多い画家です。
彼女の絵に出会い、魅力を伝えたいと思ったのが、ギャラリーを始めるきっかけのひとつでもあります。
魅力あふれる作品を製作し、デンマークで長らく活躍しましたが、本国でも彼女を扱った文献は多くありません。
この場を使ってHerdis Gelardiの人生と作品の魅力について記してみたいと思います。
Herdis Gelardiの生い立ちと生涯
1914年生まれのHerdisが育った街は、オールボー(Ålborg)というデンマーク北部の港町です。
現在は国内で第4番目の人口を抱えており、オールボー大学があることから、若い人が多い街と言われています。
Herdisの足跡を辿りたくて、一度訪れたことがあります(いわゆる聖地巡礼ですね)。
コペンハーゲンと比べて気温が3〜4度ほど低く感じられ、びっくりしました。
街並みはコンパクトながら、古都らしく歴史のある書店や画材店が点在し、彼女と同じ景色を見ているかもと思うと感慨深かったです。
(ちなみに彼女が育った地域は、お墓の場所等からおそらく、現在の市中心より郊外と考えられます。)
写真は訪問時に撮影したもので、食いしんぼう写真が混じってますがすみません^^;
父が画家だったことから早くから絵筆を握り始めた彼女は、20歳で画商のLaurits Gelardiと結婚します。
そして20代をコペンハーゲンの絵画学校で学び、プロとして生計を立て始めました。
現代のイメージから、当時もデンマーク画壇で女性が男性と対等に活躍していたのかな?と思いますが、同時代の女性職業画家はそれほど多くなかったようです。
働いていた女性の数は多くとも(例えば同時代のロイヤルコペンハーゲンの絵付けは、ほぼ女性が担っていました)、現在まで署名つきの作品が評価されている女性画家は稀です。彼女の活躍には、画商である夫の支援も少なからずあったのでしょう。
彼女の作品は広く愛され、戦後はイタリアとオランダ留学を経てデンマークに戻ったのちも第一線で活躍し続けました。また息子のRuben Gelardiも長じて画家になり、三代続く芸術一家となりました。
魅惑の色彩
Herdisの作品の魅力として一番に挙げられるのが「色彩」だと思います。
Herdisの作品は単色でトーンを統一したものはあまりなく、青・黄・紫・桃色などなど、様々な色が画面いっぱいに用いられることが多いです。
そう聞くとおもちゃ箱をひっくり返したような色彩をイメージされるかもしれないですが、何かの色が突出して目立つことなく、全体として穏やかにまとまっています。
秘密は色の組み合わせにあると考えています。
「黄色と紫」「桃色と緑」「朱色と空色」など、お気に入り(?)の組み合わせが見受けられますが、おそらく色相的に相性のよい色を選んでいると思われます。
そのため、見ていて心地よい調和が感じられるところが、わたしが彼女の作品でとても好きなポイントです。
独特のタッチ
色彩に加え、作品の魅力を底上げしているのが、絵筆の独自のタッチだと思います。
彼女のタッチは比較的”ラフ”で、筆跡がしっかり残っているのが特徴です。
例えば下の写真作品の林檎を見てみると、グラデーション部分はパレットナイフで少しずつ色を変えながらぽんぽんと絵の具を置いています。そのため、いわば”点描”のように色の鮮やかさを残しつつ、少し離れて見ると見事なグラデーションができています。
この独自のタッチは、ヨーロッパ諸国の技術を吸収したうえで、彼女が自分の表現として編み出したものでしょう。作品をぜひ間近でご覧いただきたいと思う理由の一つです。
画材選び
彼女の作品は、確認できているだけでも「キャンバス」「麻布」「板」と、様々な画材の上に描かれています。
おそらく彼女の製作期間のうち1940年代頃までは、戦時下で物資が不足していたことも影響しているでしょう。
(当時デンマークは裕福な国ではありませんでした。1914年生まれのHerdisの3年後に生まれた、女性作家トーヴェ・ディトレウセンの自伝的小説”結婚/毒”には、1920年代以降のデンマークの暮らしが書かれており、当時の生活状況がよくわかります。)
一方で、その画材の多様さが魅力でもあります。
たとえば麻布に描かれた作品は、素地の荒さが筆のタッチと相まって、独特のニュアンスを生み出しています。
額装
Herdisの作品は、ユニークな額装が施されたものが多いです。箱に収めたような形状のもの、内枠に麻布を貼り付けた物など…。弊廊で扱う作品は、額が破損等しているものを除いて、オリジナルの額を磨いた物をお届けしております。
額の作者を特定するのは困難ですが、いずれも色や形など作品特性に合わせたデザインとなっていることから、おそらく絵の完成と同時に、本人または近しい人が製作したと個人的に推測しています。
釘の跡が残っていたりちょっと隙間があったりと、やや作りが甘い部分もあるのですが、額も含めて一つの作品と考えていたのではないかと思います。
なお本枠の内側に、さらに細い真っ白な細い木枠が設けられているものも多いですが、これはHerdisに限らず北欧の額装によく見られる特徴です。白木ベースが多い、家の建具のトーンと合わせるための工夫と考えられています。
ここまで、長々と魅力を語らせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
これをきっかけに、彼女の作品に興味を持っていただけましたらとても嬉しく思います。
ぜひGalleriページから、作品をご覧くださいませ。