【美術展訪問記】インド細密画 -はじめましてインド 宮廷絵画120点との対話-
東京都の府中市美術館で開催されているインド細密画 -はじめましてインド 宮廷絵画120点との対話-に行きました。
わたしの姓は"シドゥ(Sidhu)"ですが、実はインド北部の姓です。
夫の祖父がインド出身のため名乗らせてもらっているのですが、インド美術ってよく知らないなぁと思い、好奇心いっぱいで訪問しました。
展示されているのは16世紀後半から19世紀半ばにインド各地の宮廷で愛好された絵画です。
奈良の住職で画家でもあられる畠中光亨さんご所蔵作の数々を、間近で拝見することができます。
インドの美術は同時代の西洋絵画の王道と異なり、建物に付随する大きな作品ではなく、手にとって眺める絵画だそうです。
そのため細密画と呼ばれる、手のひらサイズの画面にマイクロな作画技術を詰め込んだ作品がラインナップされています。
まず驚いたのが、髪の毛のような細さの線と砂つぶのような小さい点で絵が構成されていることです。筆の先ではなく筆の1本の毛で書かれた線も多く、訓練された画家たちが、宮廷に献上するために技術を競っていたのだろうなぁと想像できます。
展示作品は、イスラーム教国のムガル帝国(デリーなど)から生まれたムガル絵画と、ヒンドゥー諸国のラージプト絵画に大別されています。
ムガル絵画は、イスラーム教が一神教で偶像崇拝を禁じるため、貴人や宮廷生活のモチーフが多いです。
一方ラージプト絵画は複数の神々や英雄の姿をモチーフにし、フラットで強い色彩が特徴だそうです。
宗教や文化の詳しい解説があるので、知識が乏しくても十二分に楽しめました。
インド文化の特徴として、祭祀のための音楽の重要度が高く、絵画も音楽を表現したものが多くあるそうです。
また人の目の力を重視するため、目を大きく描いても違和感がないよう、人物が横向きの構図を重用するそう。
これは古代のエジプト絵画の構図が思い出す一方、対象のリアリティより物語性を重視するところは日本の絵巻物との共通性があったりと、改めて彼の地が多文化を融合・再発信される場所だったんだなぁと感じました。
画材がなんだろうと思っていたのですが、インドでは岩・植物・動物などからさまざまな顔料が採れ、絵画や染色に使われるそうです。
たとえば"インディアンイエローの顔料は、マンゴーの葉のみを食べた若い牡牛の尿から作られる"という紹介があり、誰がどういうシチュエーションで発見したんだろう…と思ったりと、最後まで驚きの連続でした。
解説の中に"インドでは音楽と同様に、絵は人の心に訴えかけ、感情を呼び起こすもの"というフレーズがあります。つい技術や素材にも目が行ってしまいましたが、社会の中で絵が果す役割についても改めて考えました。
最後に固い感想になってしまいましたが、作品もピンクがテーマカラーの会場もとってもかわいく、眺めているだけで楽しくなる展示会です。
作品それぞれに解説があるのも初心者にはありがたく、"はじめましてインド"のタイトルどおり、たくさんの学びと発見がありました。
美術館が所在する公園も自然がいっぱいで気持ちよく、ゆったりと時間を過ごすことができます。